伝える準備

新型コロナウイルスの世界的大流行が3年目に入りました。こんな異常事態がこれほど長く続くとは、誰も予想しなかったのではないでしょうか。明るいニュースは聞けないし、かといってTVを見ないのも心配、という日々はまだまだ続きそうです。

そんな中、日本テレビの藤井貴彦さんというアナウンサーが  

昨年秋、一部で話題になった事をご存知でしょうか。

藤井アナは「news every.」という番組のメーンキャスターで、

2021年『好きな男性アナウンサーランキング』で1位に輝きました。

注目されているのは、そのコメントにあらわれる誠実さと気づかい。怒りや不愉快な思いがわき起こりそうなニュースも、藤井アナが伝えると聞く人に希望と安心感を与えるというのです。私は「news every.」を見たことがなくて、どうしてそんな事が?と不思議に思いましたが、藤井アナの著作「伝える準備」を読んでみて、なるほどー、と納得できました。今回は、皆さんにその一部をご紹介します。

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新型コロナウイルスの緊急事態宣言が出された時、テレビ画面は「人の少ない渋谷のスクランブル交差点」を映し出しました。この交差点をどう表現するか。アナウンサーによって、テレビ局によって、それぞれのスタンスがありました。

あの緊急事態宣言の状況下ですから、異様な光景とするか、あるべき光景とするか、単に「人がいません」とだけ言うか。

そんな中、私が大切にしていたのは、たくさんの人の立場から言葉を選ぶということでした。

医療従事者は 飲食店経営者は 学校の先生は 感染症の専門家は ご高齢の方々は 赤ちゃんのいるお母さんは、渋谷の交差点をどんな思いで見ていたのか。いろいろな立場の方の顔が浮かびました。でも、あちらを立てればこちらが立たずの堂々巡りで、言葉が決まりません。

結局、私は「今テレビを見ているみなさんのご協力で、人との接触が防げています」と、お伝えしました。

この交差点にいない人は、テレビの前にいるかもしれないと思ったからです。

もっと多くの人に伝わるメッセージもあったはずです。しかし私の言葉は、テレビをご覧になっている方にしか届きません。だからこそ、今時間を共有しているみなさんにメッセージを伝えようと考えたのです。私は、誰かを批判することよりも、誰かを励ますことを選びました。

 

この言葉に対する嫌悪感もあると思います。しかし私は、「政府にはしっかりとした対策を求めたいものです」といったようなコメントで、いただいた数秒の機会を消費したくなかったのです。

 

見栄えのいい言葉だけが届くのではなくて、鋭い批判だけが力を持つのではなくて、相手を頭に思い浮かべた言葉こそが届くのだと信じています。

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正直なところ、私は「政府には―」という類のコメントが嫌でTVのニュースを敬遠していたので、こんなアナウンサーもいるんだ!と目からうろこが落ちました。相手を責めるきつい言葉が使われがちな今、こういう方に本当に頑張ってほしい!と思います。

残念ながら、私はまだ「news every.」を見たことがありません。

どんな人かな?と興味がわいたら、ぜひ一度見てみて下さいね。

 

よみうりテレビ「news every.」 17:53~18:15

(出典)藤井 貴彦「伝える準備」 ディスカヴァー・トゥエンティワン ¥1,650